第160回芥川賞受賞作。
町屋良平『1R1分34秒』と共に第160回芥川賞受賞した上田岳弘『ニムロッド』を紹介します。
芥川賞の候補に上がる作品は、私の中で独特の雰囲気を味合わせてくれる作品というイメージがあります。
今回の『ニムロッド』も新鮮で、読後独特の余韻を味合わせてもらうことができた作品です。
Contents
あらすじ
「僕」は仮想通貨に目をつけた社長の指示でビットコインをネット上で「採掘」する業務に携わります。
恋人の田久保紀子は中絶と離婚のトラウマを抱えた外資系証券会社勤務です。
そして元同僚のニムロッドこと荷室仁は小説家の夢を挫折した過去をもっています。
僕を中心に生まれる2人とのやりとりは少しずつ自身の生き方に影響を与えて進んでいく話です。
ニムロッドの感想(ややネタバレあり)
題材は新しくてビットコインや時折流れる時事ニュースも最近の世の中で身近な話ばかりです。
小説は10年前のものでも20年前のものでも、それこそもっと前のものでも楽しめる作品が多いので風化しづらい媒体なのだと思ったことがあります。
でも今の日常がバックの小説なら、LINEやメール、各iPhoneの機種だったり、当たり前に出てきますよね。コミュニケーションの形もあらゆるものがまるで変わってくるはず。
私は夏目漱石とか谷崎潤一郎とか楽しんで読むことができるけど、その時代の人が今の小説を読んでも分からなくなってくるんだろうなぁ(読むことはありえませんが)。
個人的に自分自身の中での時間を止めずに今のニュースにも目を向けて、これから出版される色々な小説を楽しめる自分でありたいと思いました。
どこかで割り切って膨大な数の過去の本に目を向けて楽しむのも面白いですけどね!
話の中で恋人もニムロッドもどこかふわふわしている「僕」と会話しながら自分の世界にこもっていくようなイメージがあります。
なんか会話の雰囲気は『風の歌を聴け』など、村上春樹さんの雰囲気を個人的に感じて、ところどころお洒落にも感じる話や会話が多くてすいすい読むことができました。
駄目な飛行機コレクションの話、面白かった。
実際に人間の歴史でこれだけ今考えたら何で作ろうと思ったの?と聞いてしまいたくなるような飛行機コレクションがあるのですね。
物語の筋とまるで関係なくニムロッドの語る飛行機コレクションの話は面白い雑学を聞いているようで興味を持って読めました。
最終的な物語の着地点は曖昧で激しく動く感情はありませんが、登場人物の距離感が印象的です。
恋人もニムロッドも癖のありそうな自分の世界観を持っています。
「僕」は関係としては近くにいるのにその世界に立ち入らないところで2人と会話し動いている感じです。
この人との距離感はもどかしくて、ふわふわ感じてしまう原因なのですが、私自身もあまり人に深入りしていかないところがあるのでよくわかるところはありました。
2人が「僕」の気持ちにどんな変化を与えているのかは読む人によって感じ方が違うかも。
私は寂しいけれど前向きに本を閉じることができました。
終わりに
芥川賞候補作は分量が少ないですが余韻の切れ味が鋭いですね。
でも綿谷りささん、村上龍さん、辻仁成さんなど、受賞作家の名前を見ると私が読書にのめり込むきっかけになった作家も多いです。
読後感の爽やかさを感じられる作品はあまりない印象ですが、その世界にどっぷり浸かれる作品ばかり。
これからも目が離せません。