奥田亜希子さんのデビュー作です。
この本は私がよく行く本屋にはその週に新聞で紹介された本が並べられているコーナーがあります。普段、出会えないような本にも出会えることがあって好きなコーナーです。
そのコーナーで出会ったのが今回紹介する『左目に映る星』です。第37回すばる文学賞を受賞した奥田亜希子さんのデビュー作となります。
始めあんまり好きじゃない登場人物が出てきて、「嫌だなぁ」とか思って読んでいたのですがいつのまにか共感して面白くなっていった作品です。
「私はたぶん、この世界の誰とも付き合えない」
帯で引用されたセリフ、とても力強くて心に残ります。
奇妙だけど愛おしくなる恋物語を紹介します。
あらすじ
早季子は26歳で、同じ癖を持ち唯一の理解者だった吉住君の小学生時代の頃の姿を想って生きています。
早季子の気持ちには孤独があって恋愛感もネガティブです。
ある日、吉住君と早季子と同じ癖を持つ宮内の存在を知り出会います。
彼はアイドルオタクで実はその癖についても早季子とまるで感覚の違う男性です。そんな2人の出会いから始まる奇妙で愛しい恋物語です。
左目に映る星の感想
特に最近は色んな作家さんの本を読みたいと思い、楽しい時間なのですが、本屋で相当悩みます。
よく悩むのでその分外れたと思うような本も最近少ないです。
でもこの本は前半読んでて外れたかもと思いました。
主人公の早季子がなかなか好きになれなくて。
孤独ぶってるようにも感じるし、少し斜にかまえるというんでしょうか、現実で出会ったらあんまり近づくとストレス溜まりそうと思うような人に感じられて。。
言い過ぎですね笑
だから早季子視点で進む話が嫌になりかけていました。
ですが分量の真ん中で折り返したあたりから、不思議と早季子の気持ちに共感するようになっていました。
大きな要因はアイドルオタクの宮内の存在だと思います。
宮内も少々相手の顔色を伺いすぎる自信のない男ですが、2人が出会ってすれ違ったりしている様子がなんか可愛らしくて、気持ちが揺さぶられる早季子の姿を見ていると実は内面の臆病な真っ直ぐさが見えてきて好きになっていました。
また、宮内も気を遣っているんだけど空気が読めなくて早季子とおかしな掛け合いになってしまったり面白いんです。
人って感覚が似ている人を好きになるのか、感覚が違う人を好きになるのか。
また、パートナーに適した人って似ている方がいいのか、それとも違っている方がいいのか。
読んでいてそんなことを考えてました。
答えは単純にどっちってことではないのはわかるんですけどね。
この本の読書を通して、早季子の不器用な恋愛を見ていると、似ていても違ってもどちらでも僅かな共感や相違を通して、喜んだり落ち込んだり、好きになったり嫌いになったりするのだとひしひしと実感しています。
実感というのは私もまるで合わないと思っていた早季子に対して、嫌な人だと思ってきた気持ちが、僅かな共感を切り口にして、いつのまにか好意に変わっていたから。
一度好意に変わると共感の振れ幅もますます大きくなるんですね。
どんどん早季子のことを好きになってがっちり物語にはまったのだと感じました。
私自身あまり表に出さないように気をつけていますがネガティブな時たくさんあります。
不器用に物事を進めて自分をカッコ悪いと思うこともあります。
そんな自分だから結果的に響いたのかもしれません。
少しでも共感を感じたならばきっと読み終わる頃に少し前向きになれている本だと思います。
終わりに
少し前に発売された作品になります。
小説の醍醐味って何でしょうか。なんとなく映画や漫画や音楽と同じように楽しんでいる私ですが最近はこうやって記事にするようになって小説の面白みとか醍醐味をよく考えます。
一つ思ったことはとても微妙な感情の空気感がよく伝わるエンターテイメントだと思いました。
それはこういう小説を読んで好きにも嫌いにもなれる登場人物の微妙な気持ちの揺れ動きが面白くてつい自分に重ねてたり単純に応援してしまいます。
思い切り頭の中で活字が展開されるせいかどっぷり浸かると頭の中が今まで自分が体験したことないような世界になっています。
この作品は体験したことのない面白さがあって紹介させて頂きました。