『横道世之介』の続編です!
『横道世之介』は2010年本屋大賞3位となり高良健吾さん主演で映画化された作品です。
あれから少し大人になった24歳の横道世之介の一年間が描かれています。
映画『横道世之介』で主演を務めた高良健吾さんの帯の一言、
「横道世之介は僕にとってのヒーローです。」
私にとってもたくさん笑えて、たくさん泣けて、そして自分の背中を押してくれるような読書の時間でした。
そんな最高の青春小説と言える一冊を紹介します。
あらすじ
バブルの売り手市場に乗り遅れ、横道世之介24歳はバイトとパチンコで食いつないでいます。
人生のダメな時期にあるのですが世之介の周りでは笑顔が絶えません。
鮨職人を目指す女友達や大学時代からの親友、美しいヤンママとその息子たちとの1年を綴った物語と27年後オリンピックに沸く東京での奇跡を綴った物語が交差しながら描かれた物語です。
ここからネタバレ注意
続 横道世之介の感想(ネタバレあり)
続 横道世之介の世界
『横道世之介』が大学入学からの1年が描かれた話でした。今作は24歳。留年を経て、大学卒業した後の横道世之介の1年が描かれた話です。
しばらく時間が空いているので『横道世之介』の主要人物だった祥子さん、千春さん、倉持くんは全く出てきません。
この1冊はこの1冊として楽しめる本だと思います。
そしてこの『続 横道世之介』はさらに27年後の東京オリンピックでの物語も平行して描かれていてとても今の読者にとってタイムリーな物語ですね!
例えばミステリーもので名物刑事や探偵の類がシリーズとして書籍が連なっていくことはよくありますが、青春物語で続編として描かれる物語はそう多くはないように思えます。
前作と今作の繋がりといえばそれが横道世之介の物語ということだけです。
何が面白いのか?と聞かれればトリックとか伏線とかそういうものではなく、
横道世之介の生き様!
と答える他ありません。
今作は24歳の横道世之介の一年間ですが、前作と変わらず、もしかしたら前作以上に魅力的な横道世之介の姿が描かれた世界です。
世之介の人柄
世之介はどこか頼りなくてふわふわしている男です。
それは変わりありません。なんというか、
軽い!
そして、気の毒なほど間抜けなところも大いにあります。
だから騙される場面はやきもきしてしまいます。
バイト先の会社で盗み疑惑をかけられた時、
アメリカで同乗詐欺を受けた時、
それぞれそのまま被害を被ってしまう世之介ですが、一度落ち込んですぐに前向きに転じられるのは世之介のすごいところです。(でもアメリカでそのまま世之介を放っておき、帰国後も引きずるコモロンは一体何なの?と思いました笑)
大学卒業してフリーターでい続けるということは厳しい世間的な視線もあります。
父親が世之介の就職を考えて知人にお願いするような話もその表れですよね。
勿論、世之介も世間的な視線を感じることもしばしばあります。
でも世之介はそれよりも大事なことを持っているのだと私は感じました。
世之介は良くも悪くも目の前で起きていることが全てで真っすぐに向き合うことしかできない不器用な男なのです。
だから話す言葉も誠実です。
隼人が亡くなった光司を思い浮かべて、
「光司の奴さ、俺のこと、許してくれたかな?」
と世之介に聞きます。世之介は「もちろんですよ。光司さんはもう許してくれてますよ。」と答えることが隼人の安心につながることは分かっているし、簡単だとも思います。
でも、その言葉は出てきません。隼人が13年間、人の立場になって物事を考え続けていたことを知っていたとしても。
「俺には、分からないです……」
世之介は素直にそう言った。
一瞬、隼人の顔が青ざめる。きっと、いい返事を期待して、世之介に尋ねたはずである。
世之介の言葉は本心の言葉です。
そういった言葉の積み重ねが人の気持ちにいつまでも残っていくからこそ、世之介の存在も人の心に残るのだと思います。
世之介と亮太
世之介がはっきりと幸せな日々だと感じることができるのが桜子と亮太との日々です。
27年後、亮太のオリンピックでの活躍は描かれていますが、その亮太と世之介の関わりは物語の軸です。
就職もしないで二度もプロポーズをして、しかも振られてしまうところが世之介らしいのですが、ふわふわとしているような世之介が幸せを感じたからこそのプロポーズなのだと思います。
そして先にも記述した世之介の真っすぐな人柄で接した亮太との日々は小説で詳しく描かれていない部分までも強く亮太や桜子の気持ちに残っているようでした。
亮太のゴールする場面を眺めていた桜子が世之介のようだと思う場面など様々な場面でそれが見えるのですが特に心に残った1つ場面だけ上げます。
幼少時代の亮太が小さい子のおもちゃを取って桜子に怒られてべそかいている時の世之介の言葉、
川を渡ってくる風に、ほのかに潮の匂いがする。
「……いいか、亮太。弱い人間っていうのは、弱い人からおもちゃを取ろうとする人のことだぞ。逆に、強い人間っていうのは、弱い人に自分のおもちゃを貸してあげられる人のこと。分かるか?」
亮太は大きくなって無理をしてでもパラリンピックマラソンの伴走者を引き受けます。
そしてアクシデントがあってもマラソンを懸命に走っている安藤選手の横で亮太は「いける、いける!」と声を掛け続けます。
その姿が世之介の言葉と、世之介が亮太に自転車で付き添って声を掛け続ける姿と重なりました。
とんでもなく辛い気持ちになり、温かい気持ちが起こるという奇妙な感情。
世之介は私にとってもヒーローです。
終わりに
善良でまっすぐな男で彼の周りには笑顔が生まれるし、後に世之介のことを思い出すと皆が頼りない世之介をしみじみと、自分にとって大事な存在だったと思い出します。
世之介との時間はあっという間でした。
人生のダメな時期に残る足跡にも人柄が残されていきます。
世之介は間抜けなところはあるのだけどまっすぐで根拠のない前向きさがあって、真剣だったりします。たくさん周りの人に力を与えます。
そういう日々はダメな時期であったとしても長い年月ずっと人々の気持ちに残っていくのが堪らなく嬉しかったです。
文中にもありますが「善良であることの奇跡」って確かにその通りです。
世之介の存在を私の中でも残しながらこれからどんな日々でも張り切っていこうと思いました。
読み終わってしまって寂しい。それくらい素敵な読書の時間でした。
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