理系小説というべきでしょうか。
いや、今、理系だろうが文系だろうがたくさんの人がスマホやコンピュータを持ち、インターネットを駆使して仕事から趣味まで幅広く楽しんでいるこの時代で理系小説などないのかもしれません。
だけど読んでいて一つ一つの文章に知的な興味も溢れるような内容を感じられてしかも考えさせられて面白くて昨年一番たくさん色々な人に勧めた作家さんがこの早瀬耕さんです。
特に『プラネタリウムの外側』の雰囲気が今の季節の読書にぴったりで紹介します!
Contents
簡単なあらすじ・説明
北海道大学工学部2年の佐伯衣理奈は、元恋人が友人の川原圭の背中を、いつも追いかけてきました。
そんな圭が2か月前、札幌駅で列車に轢かれて亡くなります。
彼は同級生からの中傷に悲観して自死を選択したのか、それともホームから転落した男性を救うためだったのか。
衣理奈は、有機素子コンピュータで会話プログラムを開発する南雲教授のもとを訪れ、亡くなる直前の圭との会話を再現するのですが。(「プラネタリウムの外側」)
亡くなった人間の再現ともいえるような会話プログラムの周りで生きる人間たちの恋愛と世界についての連作集。
プラネタリウムの外側の感想
大学内のとある研究室の話です。章立てされていてそれぞれ違う目線で成り立つ連作集です。
研究室には有機素子コンピュータがあります。
演算能力の高いコンピュータです。
そのコンピュータを使って助教授南雲達は会話プログラムを設計します。
チャット画面上でまるで知性を持ったかのように会話ができるコンピュータ。
例えば亡き相棒であり友人の条件を設定すれば友人が現在の世界でチャットに現れます。
設定されたコンピュータと人間とのチャット上での会話が軸となって話が進みます。
現実とコンピュータの中身をまたぐような世界観は未来的であり非常に知性的です。
プログラムやらアルゴリズムやらシステムについてこれだけ説得力を持って書くことが出来るのはなかなかというかまずできないと思います。
SFと言えるのですがあり得そうに感じてしまうくらいに。
そんな、SFなのですが総じてみると生きる力に変わるような恋愛小説です。
コンピュータの演算処理の話や、例えば合わせ鏡で無限に写る鏡の中の自分は光の速度上、どこかで過去が現れるものなのか、とかなんというか、興味をそそられてしまう事柄が多くて推理とは全く違って頭が回転して新しい面白みがあります。
そんな新鮮な面白みともう会えない人間をコンピュータ上に再現させた人物の心情の微妙な趣きがたまらなくて心に残る読書になりました。
終わりに
連作集として一つ一つの話が雰囲気ある余韻を楽しませてくれるのに、最後終わってみて全ての短編が救われるような温かい余韻も感じさせてくれて好きです。
早瀬耕さんは他に『未必のマクベス』という小説を書かれていてそちらも面白くて、合わせて新作が楽しみな作家となりました。
次作の出版はいつかと楽しみです。