こざわたまこさんをご存知でしょうか。
私は大好きな作家さんは?と問われた時に窪美澄さんを上げることが多いです。
光を探して必死にもがくような強い力に引き寄せられるからです。
同じような感覚を持った方におすすめしたい作家さんとしてこざわたまこさんを上げます。
痛くて、でも読み終えると「この本を読んでよかった」と心から思える作品を書かれています。
今回は昨年発売した『君に言えなかったこと』を紹介します。
Contents
簡単なあらすじ・説明
結婚を考えていた元恋人へ、田舎から一緒に上京した親友へ、亡くなった母へ……。
大切な人に伝えられなかった本当の気持ちについての短編集です。
君に言えなかったことの感想
親友やライバルのような存在やアイドルや亡くなった母や元恋人などそれぞれうまく伝えられないもどかしい気持ちがそれぞれの短編の描写の中でそこかしこに流れています。
それは単純に、伝えたかったけどタイミング的にうまくいかなかったものもありますし、後からあの時伝えられていればよかったのにと思い返す気持ちもあります。言語化するのが難しいようなじれったい気持ちもあります。
ちょっと懐かしく、切ないような短編ばかりです。
読んでいて個人的に思ったのは、2、3年前くらいに「ボクらの時代」というテレビ番組で朝井リョウさんが出ていて、小説はあるあるを積み上げていくようなものだという趣旨の発言をされていました(違っていたら申し訳ないのですが)。
この本のそれぞれの短編にはあるあると言ったら安っぽく感じてしまうような瑞々しいあるある的な共感があって、何気ないどこかにありそうな設定なのにぐいぐい読まされてしまいました。
1編目が親友の結婚式のスピーチなんですが、スピーチとスピーチの裏にある本心が交互に描かれていて、
どちらも、あぁやばい、何これすごい
とか思いながら読んでいました。
初めから心を掴まれてしまってもう全ての話あっという間でした。そして後に続く短編も唸るような作品ばかりでした。
がっちり起承転結がはまるような話ではないけど、帯にあるように瑞々しい才能ってこういうことなんだと頷いてしまうような本でした。
どれも面白かったのですが「君に贈る言葉」「君のシュートは」「君に言えなかったこと」の3作品、今でもじんわりと余韻が残っています。
終わりに
本心を突き詰めて考えてみると自分でも混乱してしまいます。
本当にしたいことは何なのだろうと考えることも多いです。
気持ちと行動が直結しているように動いている人を見ると羨ましくなるし、かっこいいなぁって思います。
私はカッコ悪いですけど、建前とか常識みたいなものに囚われて行動している時が多くあります。
それは別に悪いことではないと思います。それを捨て去ってしまった時の周りの反応に耐えられる自信がないから。
だけど本当に譲れない大切なものは多少頑固でも曲げずにがんばろうとは思っています。
この小説は大切だけど隠したくもなってしまうような微妙で繊細な気持ちも描かれています。
読み終えた時、こういう小説に出会えて嬉しかったと思えた一冊です。