第9回野生時代フロンティア文学賞受賞の岩井圭也さんのデビュー作!
数学的感覚に優れた、いわゆる数学の天才の青春時代の苦悩と憑りつかれてるように証明問題に取り組んできた生き様が描かれています。
数学を小説で扱うというのは珍しいのではないでしょうか。
作家はなんとなく文系だという決めつけが私にはあって、数学のコアな部分を扱う小説を描くのはなかなか想像できませんでした。
でも、この小説を読むと度肝を抜かれるくらい面白くて、私自身の知らない世界を広げてくれる感覚をもたらしてくれました。
溢れる才能にのめり込む熱量が掛け合わされればされるほど孤独になっていく何とも言えない物語を紹介します。
あらすじ
特別推薦制として大学の数学科で瞭司と熊沢、佐那は出会います。眩いばかりの数学的才能を持つ瞭司に惹きつけられるように三人は結び付き、共同研究で画期的な成果を上げます。
しかし瞭司の過激な才能は周囲の人間を巻き込み、関係性を修復不可能なほどに引き裂いてしまいます。
出会ってから十七年後、失意の中で死んだ瞭司の研究ノートを手にした熊沢は未解決問題「コラッツ予想」の証明と思われる記述を発見します。
贖罪の気持ち抱える熊沢はノートに挑むことで再び瞭司と向き合うことを決意します。
三人の出会いから瞭司が荒んでいく様、熊沢がノートと向き合うことで抱く感情の揺れ動きが描かれた物語です。
ここからネタバレ注意
永遠についての証明の感想(ネタバレ)
瞭司の孤独
「コラッツ予想」や「プルビス」、「ムーンシャイン予想」といった普段生活していて聞いたことのないような言葉が飛び交います。
まるで数学の専門的知識がない私でしたが、そんなものは必要なく小説の世界にのめり込んでいきました。
なぜかというと小説の中の世界でも瞭司の眺める世界やひらめきについていける人物はいないのですから。
私は小説内の人物と同じように瞭司の理解のできないところで広がる才能を楽しむことができました。
才能って何なのでしょうね。
誰にも思いつかないことをひらめく才能。
誰よりもその事柄にのめり込むことができる才能。
そしてそれが人の理解できない範囲までいってしまうと周りから人はいなくなり、重圧だけが増し孤独を感じる、天才故の孤独が訪れるということ。
解決すべき問題があるということは素晴らしいことであると思うのですが、荒んでいく瞭司の姿は痛々しくありました。
かつて瞭司は大学メンバーと数学分野で切磋琢磨していく様子について「数学」を燃え上がる船に例えて思います。
瞭司はこの船に乗っていることを誇りに思った。そして船が終着駅にたどりつくためなら喜んで灰になるつもりだった。
そして最後に、瞭司は理論を残して、理論の中で生きていく自分に陶酔する様子で死という安らかで恐れのない永遠の時に包まれていきます。
そのバトンのような繋がりは後に熊沢が受け取りますがやりきれない寂しさを感じました。
数学で繋がる絆
熊沢は数学分野で能力を発揮する瞭司の数少ない理解者でもあります。
佐那に恋人みたいと揶揄されるほど二人は一緒に大学生活を送ります。
ただ瞭司の言うことのかけらが理解できるからこそ、憧れと嫉妬を感じ、違う分野へと熊沢は進んでいきます。
アルコールに飲まれ苦悩している瞭司を半ば突き放すように接してきた熊沢は贖罪の気持ちで瞭司の残したノートの理論の解析を始めます。
熊沢が専門とする理論の発展形が瞭司のノートの理論を解明する鍵になっていることが分かった瞬間、身震いしました。
瞭司は亡くなりましたが確かに理論の中で生きている瞭司を熊沢は感じて発表へと理論を組み立てていく様子は新感覚の熱い気持ちを感じます。
永遠についての感想、まとめ
文系の私が数学の天才を描いた物語に引き込まれました。
天才は孤独という言葉は聞いたことのあるような言葉だけど物語として読んでみると説得力のある重みで、才能のある人の苦悩を自分のものとして読める作品です。
数学的な用語なんて分かっても分からなくても関係ない。
題材としての面白さに始めは興味をそそられて面白く読みましたが、だんだんと狂気と熱量にやられて、時間を置いて繋がっていく人間模様が魅力的でした。
永遠についての証明、読後感じた〇〇
理系の小説というのでしょうか。
小説に新しさがあることが嬉しい読書でした。
こういう読書をするともっともっと読書したいと思います。