創作ショートショートです。
約1000文字で2,3分で読める分量です。
光る膝小僧
「いーち、にい、さん、よん……」
公園の噴水周りの池に膝まで浸かっている美久は大きな声で数えている。「なんでいきなり」と牧太は笑うが私には声で分かる。お風呂の時と混同しているのだ。
隣でやっぱり同じように膝まで浸かっている男の子が美久を指さして笑う。牧太が思ったように数えているからかと思ったがそうではない。
「ちがうよー、いち、に、さん、しーだよ」
あぁ、なるほど。私も指折って数えてみる。
いち、に、さん、よん……あれ?
美久もあれ?といった表情をしている。
「いち、に、さん、し、確かにね」
牧太は分かった風だ。
お風呂の時を思い浮かべる。私の声に合わせて美久は数えている。不思議な顔して池から出て、光る水しぶきを落としながら近づく美久はまだ納得いかない表情だ。
「ねえ、みくちゃんちがうの?」
「うん、ちが……」と言いかけた牧太に被せるように「いいよ、みく、それでいいんだよ」と強く言った。
私は何で「いちにさんよん」と数えるようになったのだろう。私も母親の真似をしたのだった。母がお風呂で数える声を真似して、それでいて他の友達が「いちにさんし」と数えることに気づいた時も私と母の繋がりを誇るようにその特別な癖を変えることはしなかった。
ずっと忘れていた。忘れていたというよりも馴染んでいた。もう母はいなくなってしまったけどまだ母は私の中に確かにいるのだった。でも本当は母も私みたいに誰かから引き継いでそんな数え方になったのかもしれない。
「そうなの?」
不思議そうな顔している美久に「いち、に、さん、よん、でも、いち、に、さん、し、でも美久の好きな方でいいんだよ」と言ってみる。最後に「ね?」と牧太を振り返すと「父さんはいちにさんし派だけどな」と真顔で言っている。
まったくもう。でもま、いっか。
私達は「どうする? もう帰る? それとも噴水でまだ遊ぶ?」と聞くと美久は満面の笑みを浮かべて「も少し遊ぶ」と駆けて行った。
池に入って美久は水しぶきを上げる。
「いーち、にい、さん……」
私達は夫婦して注目する。まるで美久の取り合いだ。
美久は目を大きく開けて大声で笑う。「あはは、もうわかんないやー」
美久は足をばたつかせて服を濡らす。膝小僧が身体中に光を飛ばして私達は「あーあ」と笑った。(了)
終わりに
繋がりについてが最近の書きたいことで、どちらかというと最近は暗めの発想ばかりだったのですが色々動いている内にたくさん笑っているものを書きたいと思い、こんな感じになりました。
なんか独特なものをこのブログでは書きまくっている気がしますがかなり開き直っています。
また長いものも短いものも書いていきますのでもしよかったらまた読んでやってくださいね!