創作

『カーテン越しの見え方がちがうだけ』⑤【創作小説】

創作『カーテン越しの見え方がちがうだけ』第5話です。

前回はこちら。

『カーテン越しの見え方がちがうだけ』④【創作小説】創作『カーテン越しの見え方がちがうだけ』第4話です。 前回はこちら。 https://tokeichikura.com/so...

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カーテン越しの見え方がちがうだけ・まとめ

場面番号は便宜上しおりがわりになるように実際よりも細かく振っています。

『カーテン越しの見え方がちがうだけ』⑤

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カーテンさんは僕の想像をはるかに超えて動く。先週、意中の彼に振られて、さらには社員の人には気持ち悪いとまで言われて泣いて落ち込んだのにも関わらず、また派遣先で彼の席へと足を運んだのであった。

カーテンさんは悪びれもなく淡々と僕に言った。

「恋愛とかではなくて一人の男性として話がしてみたくてその男性の所に行った」

眉を描いた感じがどんな顔なのか私には知る由はなかったが、どんな顔にしても振った相手が控えめに言って少し個性があって、さらにぐいぐい言い寄られた時の気持ちというのは容易に想像がついた。想像に違わず、カーテンさんは「嫌な気持ちにさせてしまったのか何も話してはくれなかった」のだと言う。最終的には舌打ちをした社員の女性に「いい加減に戻って仕事しなさい。迷惑だって気づきなさい」と怒鳴られて仕事に戻らざるを得なかった。彼からも「気持ち悪い」という言葉をもらってしまった。

そしてその日の業務終了後、派遣元から電話があり事務所に呼び出され、「退職した方がいい」という名の解雇通知をもらったということだった。

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「なんでうまくいかない。駄目さがしんどい」とカーテンさんはため息混じりに言った。カーテンさんの本音に聞こえた。

ただカーテンさんは最後に「楽になった」とも言った。強がりなのかもしれない。ただ一心不乱にジャグリングなど自分の技術の向上に没頭している姿を見て何かを言うことは必要ないと感じた。

これだけ素晴らしい技術を持っていて真っ直ぐ生きているのにうまくいかないものごとばかりなのだろうか。きっとやってしまったことは迷惑で空気も読めていない行動だったのかもしれない。それでも僕自身の中でも悔しい気持ちがあった。

カーテンさんの素晴らしさを世の人に伝えたかった。

彼女のやってきた努力の結晶である人間離れした細やかで繊細な技術を見せたかった。

だからこの日の終わりに言ってみた。

「カーテンさん、昼間にその技術を大道芸っていうのかな、散歩している人とかもっとたくさんの人に披露してみない?」

カーテンさんの力は絶対に人の笑顔に繋がる技術だった。少しでも自信を持ってもらいたい、それが僕の気持ちだった。

ただカーテンさんは僕の提案には答えなかった。短く「嫌だ」と答えた。「何で?」と聞いても言葉すら返ってこない。カーテンさんはただ自分の技術向上のための練習を積み上げていくだけだった。僕もそれ以上は言わなかった。

だけどいつかカーテンさんが称賛されて自信を持てる日が来たらそれはとても素晴らしいのだけど。

こうして僕達はそれぞれの恋愛事情にひとまずの決着をつけて、またいつもの日常に戻っていく。

僕は有休消化期間に入ったが公園に行く頻度は行って週に一度となっていた。少しずつ気持ちが穏やかになってきていることを感じていた。二か月近く溜まっている有休期間の中で転職活動をしなくてはならなかったが、期間もまだあることと、貯金にも余裕があったのでそこまでの切迫感はなかった。

お金については先日義母から連絡があった。あくまでも知佳は僕とは話したくなく、窓口は義母だった。義母の口ぶりだと僕との生活が相当のストレスになってしまったような口ぶりだった。そう言われるのならば本当に申し訳なくて僕は自分を責めるだけだった。

ただ義母からは財産分与なしの条件を切り出された。いくらなんでも僕にも過失はあるのだからと思い、断ろうとしたが義母から激しく断りを受けた。話を聞いているとそういう条件でないと知佳の気持ちが楽にならないということだったのでその条件でのむことになった。

一緒にいる時にはろくに確認もしなかった二人の貯金口座だったがキャッシュカードで残高を確認すると結構な金額が貯金されていた。正直転職活動にゆとりがもてるのでありがたくはあった。まだ通帳については知佳が持っているそうなので折を見て送るとのことだった。

知佳とやりとりさせてもらいたいと本心では思う。ただ声を聞きたい。でもそれくらい僕が知佳の人生の重しになってしまっているのだ。

カーテンさんが初恋に壊れてしまうまでぶつかっていたのと僕とでは違う。間違ってもさらに知佳を苦しめてしまうわけにはいかない。

そしてカーテンさんは変わらず公園でマジック的なものからダンス的なもの、その他諸々、人に驚かれて感動を与えるような技術の習得に取り組んでいた。カーテンさんがすがっているのはきっと少しだけ聞いた幼少期から親戚の内で披露して称賛されてきた経験なのだろう。それと並行して始め僕を助けてくれたように夜中の公園のパトロールをしていた。もし僕のように襲われている人間でもいれば自慢の体術で公園の平和を守っていた。そして昼間についてもすぐに新しい仕事を見つけられたようで、また安定した生活の循環へと戻っていったのだった。

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環境の変化にばたばたとこの二カ月程を過ごしてきた。それは僕もカーテンさんも一緒だった。苦しみ抜いた二カ月だったが終わってこう落ち着いてみるとなんだか消化不良のような感覚を覚えるのも確かだった。僕はそのうちに頑張ろうと思える仕事を見つけて新しい環境に順応するためにがんばり、カーテンさんは納得するまでの練習をしていきながらきっと新しい恋を見つけて踏み出していくのだろうと漠然と考えていた。

それでも時間がたって夜の睡眠が深くなってきた。知佳との恋がいよいよ収まろうとしているのだと思うとそれはそれで悲しいものがある。一切合財を飲み込んで未来へと進んでいくのだ。まるでそこでの出来事がまるでただ一枚の絵であったかのように次の絵へと歩んでいくのだ。そう思うことは寂しくもある。

けれども一枚の写真を見つけてまた気持ちが大きく揺れるのだった。まだまだ次の絵に進むことはできないよ、というように。

僕は心の整理の進行と共に寝室の整理もしていた。すると押入れから一枚の写真が飛び出ていた。目を疑う写真であった。

その写真には知佳とカーテンさんが並んで写っていた。

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久々に公園に行く。手には写真を持っている。そこには知佳とカーテンさんが並んで写っている。カーテンさんはカーテンを被ってはいるがお面はつけていない。写真で見ると二人共微笑んでいて仲よさそうに思える。

そういえば家にかかっている黄色いカーテンは始め丈を間違えてハーフサイズのカーテンを買ってしまったのを思い出した。その間違えて買ったハーフサイズの黄色いカーテンはリビングの小窓につけようと話してしまったきり、何もせずにどこかになくなってしまった。それがどこにもない。押入れにしまっておいたように記憶していたが、寝室を隅から隅まで整理をし探してみたが、結構なサイズのものであるにも関わらずどこにもない。

もしかしたら、と僕は推測する。知佳がカーテンさんに渡したのではないだろうか。だから黄色いカーテンをカーテンさんは着ていたのではないだろうか。

実際、たいしたことではないので使っていないカーテンを渡すことなどどうでもいいのだが、知佳が出て行く前にカーテンさんとやりとりしていたことを僕は何も知らなかった。

そうするといくつか思い起こされることがある。出て行く前知佳が夜中にこっそり家から出ていっていたことがある。夜中に出て朝に帰ってくるのでそこまで重要視していなかった。ただそれを知佳に聞いてみた時、不穏な空気になったことがあった。でもそれは僕との生活に不満がまた大きくなっている信号だと思って私は不安に思ったのだった。実際、その後知佳は出て行ってしまったのだからその通りなのだが、カーテンさんも噛んでいたのだろうか。

僕は知佳との繋がりを求めていた。だからこんなに些細な事でも気になって気になって仕方がなくなってしまうのだ。

広場に着くとカーテンさんはいつものようにジャグリングの練習をしていた。僕の姿を認めると手を止めてこちらを見ていた。ひょっとこのお面に見つめられると不気味なものがある。

「こんばんは」

どう切り出そうか考えて挨拶をした。カーテンさんはやはり返事をしない。

「週末じゃないけど、いつもがんばってるんだね」

カーテンさんはそれに対して返事はしなかったが口を開いた。

「ちょうどよかった」

カーテンさんは持っていたスティックを地面に置いた。

「ちょうどよかった?」

「ちょうどよかった」とカーテンさんは繰り返す。

「何が?」

僕は聞いてみたが、カーテンさんは答えなかった。未だにカーテンさんの考えていることが掴めない。ほとんどの場合、カーテンさんとはお面越しに話しているので表情も読めない。仕方ないので僕の要件から伝えることにする。写真を出して見せた。

「この人のこと知ってる?」

写真をカーテンさんは見る。「知ってる」と答える。必要以上のことを言わないので僕は苛立ちを感じる。「何で?」

「何でも」

「この人が僕の奥さんだった人なんだよ。なんでカーテンさんと一緒なんだろうって思って」

カーテンさんは首をかしげた。僕ばかりが苛立っていてカーテンさんはいつも通りだ。ただカーテンさんは気になることを一言言った。

「師匠が弟子の奥さん」

僕は頭の中でその言葉を反芻した。どういうことだ。ただ考えている最中でカーテンさんは声を大にして言った。

「そんなこたぁどうでもいい」

僕は顔を上げてカーテンさんを見た。「そんなことはどうでもいい?」

カーテンさんは頷く。力強い頷きだった。

「あの男の人から連絡があった」

あの男の人とはきっとカーテンさんの片思いの相手なのだろう。

「週末に会うことになった。どうすればいい」

僕は僕で気になることがあるので質問したいのに、と思っているとカーテンさんは畳みかける。

「教えてください。お願いします」

カーテンさんが頭を下げた。

「なんなんだよ。僕の奥さんのことを教えてよ」

「師匠のことは言えない」

やっぱり「師匠」である。師匠が弟子の妻。

「何で? 何かあるの?」

「あたしは余計なことしか言えないから、言わない」

「何だよ、それ」

「絶対に言わない。絶対絶対絶対に」

カーテンさんの言葉は意思表示を強い言葉で伝える。僕は言葉の圧力に押されてため息をつく。

「まぁ、いいや」

聞いたところで知佳が戻ってくるわけではないのだ。ただ知佳とカーテンさんが知り合いだっただけだ。だから僕のどうでもいい話は置いておいて、とりあえずカーテンさんのデートの相談に乗ることにする。

「いいよ、聞かせて?」

僕はカーテンの前に腰下ろした。カーテンさんは「弟子のくせに生意気だな」とぶつぶつ小さい声で言っている。

前を見ようと僕は思う。これからのことだけを考えるのだ。その積み重ねがきっと過去よりも今の出来事を気にさせてくれるのだ。

カーテンさんの言葉に笑いながらその強烈な話が僕をすぐ捕えようとする過去の鎖を断ち切る。僕を逃がしてくれる。それでも視界の脇に知佳とカーテンさんが写った写真が目に入ってしまう。

知佳は今、何をしているのだろうか。(続)

 あとがき

読んでいただきありがとうございました。

ここまでが一つの大きな区切りです。次回から視点が変わる予定です。

また不定期更新になりますがもしよろしければまた読んで頂けたら嬉しいです。

続きはこちら。

『カーテン越しの見え方がちがうだけ』⑥【創作小説】創作『カーテン越しの見え方がちがうだけ』第6話です。 前回はこちら。 https://tokeichikura.com/so...
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一蔵とけい
一蔵とけい
社会人の本好きです。現在、知的障害者の支援施設で働いています。 小説を読むことも書くことも大好きです。読書をもっと楽しむための雑記ブログを作りたいという気持ちで立ち上げました。

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